市場活性化狙う〝住まい方改革〟 コロナ収束後も焦点に

本紙が実施した新年経営者アンケート(1月12日号1面)によると、今後成長が期待できる事業分野として「住宅」が「物流」に次いで第2位となった。在宅ワークや抗ウイルス対応、家族との過ごし方など新たな生活スタイルやニーズが現れ、市場に活力を生んでいるからだ。課題は新型コロナ収束後にこれらの変革がどう定着するのか。暮らしの本質を探る動きが始まろうとしている。
広がるコロナ対応
昨春以降、新型コロナ感染対策として在宅勤務を導入する企業が増え、在宅ワークのスペース確保は、これからの住まいづくりに欠かせない要素となってきた。課題は限られた面積の中でそれをどう実現するかだ。例えば、新築分譲マンションではLDの一角に1畳ほどの仕切られたスペースを確保したり、間取り変更メニューとしての書斎、インテリアオプションとしてベッド一体型デスクなどを用意し始めた。更に、共用施設としてコピー機やWi-Fiなどを備えたワークスペースを設ける事例も目立つ。

個室タイプの在宅ワークスペース(ミサワホームの「スマートブランドWS」)
在宅ワークスペースについて、男性(父親)は防音性の高いクローズド空間を、女性(母親)は子供を見守りながら仕事に取り組めるセミクローズド空間を希望する傾向が強いという。また、子供のいない共働き夫婦には他のスペースを犠牲にしてもそれぞれが独立した書斎を持つ、あるいはマルチハビテーション(多拠点生活、今週のことば)型住まいの提案など多彩な市場形成が今後始まる可能性もある。
一方、コロナ対応で際立ってきたのが家庭内感染を防止するための様々な工夫だ。空調・換気システムの新開発、抗ウイルス部材や建材の導入などは各社が競い始めたが、玄関脇の手洗いスペース、リビングを通らずに玄関から浴室や個室へ直行できるようにするなどこれまでの動線を大きく変える〝間取り改革〟がどこまで進むのかも注目される。
ミサワホームが今年1月に販売開始した企画型商品「スマートブランドWS」では、医療施設での感染予防の設計手法を応用し、(1)ウイルスや花粉が侵入しやすい空間(玄関や洗面所)、(2)病気になった家族の動線空間(階段やトイレ、浴室)、(3)安全な空間(キッチンやリビング、個室)の3つにゾーン分けしたプランを提案し、抗菌・抗ウイルス効果のある建材や非接触設備なども採用している。
空調や殺菌装置の設置などはともかく、大きな動線変更を伴うこうした大胆な〝間取り改革〟はコロナ収束後も定着するのだろうか。子供部屋のかたちが時代のニーズと共に変わってきたように、ウイルスや細菌による感染症との戦いが続くとすれば、間取りや動線の変更は合理的なものとして自然に定着していく可能性がある。
同社商品開発部長の石塚禎幸氏は「コロナ収束後も、ウイルス対策の観点からそうした部材や建材、非接触アイテムを標準装備する」と話す。
暮らしの本質を探求
コロナを機に住まいのあり方を見直す機運は別の角度からも高まっている。家族が共にいる時間をどう楽しむかという視点だ。例えば、旭化成ホームズは昨年11月、新商品「ワンフィット」を発売した。室内にいながらもアウトドア気分になれるインナーテラスやファミリーベランダを提案している。仕事だけでなく、大人が趣味などに没頭するためのスペースとしても活用できる。

在宅勤務中の気分転換にも有効なインナーテラス(旭化成ホームズの「ワンフィット」)
ミサワホームの「スマートブランドWS」でも、家族全員が集まっても開放感のあるリビングとなるように3メートルの高天井と高窓を標準仕様としている。このように、暮らしそのものに着目し、豊かな日常をデザインするための工夫はコロナ収束後も続く。なぜなら暮らしの本質を探る動きだからだ。
豊かさ見直す
旭化成ホームズ商品企画部の松本淳氏は自身の経験を踏まえ、こう話す。「在宅ワークが増えて通勤時間が削減された分、子供と過ごす時間が増えた。暮らしとして幸せと感じる」。
日本は先進国の中でも幸福度が低いが、コロナを機に、家族と一緒に過ごす時間が増えれば、幸福度も上がる可能性がある。「企業側も、社員が自由な時間を持てる働き方のほうが、優秀な人材が集まると考え、在宅ワークを継続するのではないか」。
同社くらしノベーション研究所の根本由美氏も、理想の暮らしを求める動きに注目する。「住まいを考える上でこれまでは職場(会社までの距離など)との関係が強かったが、今後は自分らしい暮らし、幸せな暮らしを見つめ直すことになる」と語る。
人のマネではなく独自の豊かさを求めて、それぞれの家庭が自分に合った暮らしを設計することに喜びを見いだす、そんな社会が到来するのではないか。
ただ、積水ハウスの仲井嘉浩社長は年頭所感で、「住を基軸とした〝大義あるイノベーション〟」という言葉を使っている。理想の暮らしは人それぞれだが、これからは環境への貢献が不可欠となってきたことも確かだ。(井川弘子)