定年を機に家を建て、新しい生活に臨もうとする方は昔から多くいます。還暦を過ぎると、徐々に体の衰えが顕著に感じられるようになっていくもの。

ということが、定年と同時に家を建てる動機のひとつだといえるでしょう。また、もうひとつの大きな動機として、

ということが挙げられます。特に、仕事一筋の人生を送ってきた方は、定年と同時にやることがなくなってしまうという場合も。定年後、有意義に暮らすための家を建てるには、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか?

体への負担が小さく、お互いの気配が感じられる平屋がおすすめ

まずは、加齢による体の衰えにどう対応するべきか考えてみましょう。近年増えているのは、定年とともに平屋の家を建てて引っ越す方々です。平屋には、2階建てよりも生活動線が短くなり、移動がしやすくなるというメリットがあります。階段の登り降りもしなくて済むので、体力が低下したとしても楽に暮らすことができるというわけです。

また、室内のつくりがコンパクトになるため、同居するパートナーとの距離をより近く感じることができるようになるでしょう。たとえ別々の部屋で過ごしていたとしても、「今、相手が何をしているか」を気配で感じられるようになるはずです。定年後の暮らしでは、必然的に同居するパートナーと過ごす時間が長くなります。ちょうどいい距離感を保って暮らすことが、パートナーとの関係を円満に保つためにも効果的なのです。

「家に居場所がない」という事態を防ぐためには

定年後の暮らしで注意しておかなければならないことをもうひとつご紹介しましょう。それは、家にいるときの「居場所」をどう確保するか、という問題です。特に、現役時代仕事ばかりの生活を送ってきた方は、定年した途端、急に「家に居場所がない」という状態に陥りがち。パートナーにとっても、今まであまり家にいなかった人がいつもいるようになるわけですから、なんとなく居心地の悪い感覚に陥ってしまうこともあるでしょう。

「家事をするのにもなんとなく邪魔になってしまう」
「やることがなく、ただぼんやりしているだけで日々を過ごしてしまう」

といったことになれば、充実した定年後の暮らしを送ることはできません。

「趣味のための空間」が円満な夫婦生活を保つ

定年後に家を建て、充実した日々を送るためには「家での居場所になる空間」を確保しておくといいでしょう。たとえば、趣味のための空間をつくるのもひとつの方法です。車いじりが好きな人であれば、駐車場としての役割も兼ねるビルトインガレージがあれば、誰に気兼ねすることもなく毎日趣味に打ち込むことができます。また、「定年を機に盆栽や庭いじりに挑戦したい」と考えているのなら、草花であふれた中庭を作ってみるのもいいでしょう。

今まで主に家事を担ってきた方には趣味のための空間を持つことをオススメします。パートナーとして長い間暮らしてきたといえども、顔を合わせたくない時間はあるものです。そんなときに一人になれる空間があると、気持ちを整理するのに役立ちます。書斎でも、趣味の部屋でも構いません。「ひとりになりたい」と思ったとき、すんなりと駆け込める場所があるかどうかが大事なのです。

たとえ長年パートナーとしてやってきたとしても、最低限のプライバシーは必要になります。一人ひとりが「暮らしやすい」家であることが、定年後の暮らしを円滑に送るため、住まいに求められる条件なのです。

家は長く住み続けるものです。そのため、今現在だけでなく、将来に備えて家づくりを考えなければなりません。そんな「将来への備え」の最たる例が「加齢への配慮」でしょう。

人は誰しも必ず年を取り、体の機能が衰えます。

こうした悩みにあらかじめ備えておくためには、「段差のない家」を建てるのが一番です。そのためには、どのようなことに注意すればいいのかご紹介していきましょう。

日常生活空間の段差を5mm以下に抑える

家は人間の手によってつくられるものですから、いくら段差をなくすといっても家中のありとあらゆる段差を完全にフラットにすることは不可能です。そこでまずは「どの部分の段差をどれだけなくせばいいのか」について考えてみましょう。

「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が定める「バリアフリー性に関する基準(高齢者等配慮対策等級3)」によると、新築住宅を高齢者に配慮したものにする場合、

ことが定められています。そこで今回はこの基準を例にとり、「段差のない家」を「日常生活空間の段差を5mm以下に抑えた住宅」と定義して考えてみることにしましょう。

基準に従うと、一部段差が残る場所もある

「日常生活空間」とは、玄関やリビング、キッチン、トイレ、寝室など、毎日生活のために利用する場所すべてのことです。実際の家づくりでは、施工業者に「段差のない家をつくりたい」という旨を伝え、きちんと要望通りに設計・施工されているかチェックしていくことになるでしょう。

ただし、先ほどご紹介したバリアフリー性に関する基準(高齢者等配慮対策等級3)には、「日常生活空間」の中に段差を5mm以下に抑えなくてもよいとされている「例外」があります。例外となる場所は、玄関の上がりかまちやバルコニー、浴室などです。

「例外」も段差をなくして家全部をバリアフリーに

しかし、これらの「例外」とは、あくまで「その基準の中では例外扱いされている」というだけのもの。本当に「段差のない家」をつくりたいのであれば、これら「例外」の場所も段差をなくすよう努力してみましょう。

たとえば、玄関には上がりかまちを設けず、フラットな高さで室内に入れるようしてはいかがでしょうか。一見、室内に汚れが入りそうに思われるかもしれませんが、玄関と隣接する床との高さが同じになることで、掃除しやすくなるというメリットもあります。

バルコニーも、隣接する部屋との間で床の高さを揃えれば、行き来を楽にすることができるでしょう。天気の良い日には窓を開け放ち、室内外が一体化した開放的な空間として利用することもできます。

浴室は特に高齢者が転んでしまいやすい場所なので、段差をなくすメリットの大きい場所です。それだけで不安なのであれば、手すりを設置するなどの方法を併用するのもいいでしょう。

段差のない家を実現することができれば、老後の生活が安全になるばかりでなく、若いうちの生活も楽になります。ぜひ検討してみてください。

超高齢社会となった今、

家づくりを検討している方の多くがこのような願いを共有していることと思います。高齢者に配慮した家づくりというと、多くの方は「段差をなくす」、「手すりを取り付ける」といった個別の工夫に目を向けてしまうかもしれません。たしかにそういった工夫も重要ですが、それ以上に大事なものが間取りです。間取りは設備と違い、簡単に変更することはできません。そのため、できるかぎりの配慮を住宅建設時に行っておく必要があるのです。今回は、「高齢者に配慮した間取り」について考えてみましょう。

主な生活空間を1階にするか、2階にするか

「高齢者が暮らしやすい間取り」というと、多くの方は平屋の家を思い浮かべることでしょう。高齢になると階段の登り降りがきつくなり、また、子どもが家を出ていくためそれほどの広さは必要なくなります。そのような場合は平屋建てでも問題ないでしょう。

しかし、子どもと同居するケースなどでは2階建て以上の住宅を建てなければならないことも多々あります。そのような場合に問題となるのが、「親(高齢者)の個室を1階にするか、それとも2階にするか」ということです。

1階、2階どちらを選んでもメリット・デメリットがある

親の個室を2階、リビングを1階に設ける場合について考えてみましょう。この間取りは親の主な生活空間がリビングであるときに有効です。1日の多くをリビングで過ごし、2階に上がるのは寝るだけであれば、階段の登り降りを最小限に抑えることができます。ただし、将来足腰が弱くなったときに、階段を昇り降りするのが大変になってしまうかもしれません。

続いて、親の個室を1階、リビングを2階にする場合を考えてみましょう。この間取りは親の主な生活空間が個室である場合に有効です。ただし、将来足腰が衰えればわざわざ2階のリビングにまでのぼるのが面倒になり、部屋にこもりがちになる可能性もあります。

また、階段の登り降りは必ずしも悪いことであるとは言い切れません。階段を昇り降りすること自体が日常的な鍛錬となり、足腰の衰えを予防する効果もあるからです。

「将来の間取り変更」にあらかじめ備えておこう

ここまでの説明を聞いて「結局どうしたらいいのかわからないじゃないか!」という印象を持った方もいるでしょう。実際、高齢者の体の衰え方は個人差が大きいため、最初から万全の備えをしておく、というのは難しいのです。

そこで、いっそのこと考え方を変えて「将来、体が衰えたときにリフォームしやすい間取りにしておく」というのはどうでしょうか。

ひとつの手としては、住まいを「スケルトン・インフィル」の構造としてつくっておく方法があります。スケルトン・インフィルとは住宅の柱や壁といった「構造」と「間取り」を分離した建て方のことで、「リフォームしやすい住宅の形式」として知られています。

住まいでの暮らし方は、ライフスタイルの変化によってさまざまに変わります。変化に備え、対応する方法をあらかじめ考えておくことで、ひとつの家に長く住み続けることができるのです。